あらゆる環境で発生の可能性がある、食中毒の代表格。
夏から秋にかけて増える食中毒の中でも、毎年発生件数が多いのが「サルモネラ属菌」によるものです。
卵や鶏肉を扱う現場ではもちろん、給食施設、宿泊業、家庭のキッチンなど、あらゆる環境で発生の可能性があるため、食の安全を守る上で必ず知っておきたい菌です。
この記事では、サルモネラ属菌の特徴、感染の流れ、そして予防の具体策までを詳しく解説します。
現場で日々衛生管理に携わる方々が、今すぐ実践できる「安全確保のための基本行動」を整理してお伝えします。
もくじ
サルモネラ属菌とは?
サルモネラ属菌(Salmonella)は、腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌で、家畜や野生動物、鳥類、爬虫類などの腸管内に広く存在します。
健康な動物にも常在しており、糞便を介して環境中に排出されることで、飼育環境や食品が汚染されることがあります。
ヒトに感染を起こすものは2000種以上が確認されていますが、食中毒の原因となる主な血清型は「サルモネラ・エンテリティディス(S. Enteritidis)」や「サルモネラ・チフィムリウム(S. Typhimurium)」などです。
これらは、鶏卵・食肉を中心に世界中で報告が続いており、特に近年は家庭や小規模飲食店での発生割合が増加しています。
サルモネラ食中毒は感染型の食中毒であり、体内に菌が侵入して腸管内で増殖し、毒素を放出することで症状を引き起こします。
潜伏期間は12〜48時間で、発熱(38℃以上)・悪寒・下痢・腹痛・嘔吐などが見られます。健康な成人は数日で回復しますが、乳幼児や高齢者では脱水や敗血症を起こすこともあるため、軽視できません。
感染のメカニズムと主な感染源
1. 汚染経路
感染経路は、「動物の腸内 → 糞便 → 食品・環境 → 人体」という流れで発生します。
食品工場では、原材料の卵や肉の表面が汚染されることが多く、調理中にまな板や包丁などの調理器具を介して他の食品に菌が移る、いわゆる「交差汚染」が起きやすいのが特徴です。
2. 原因食品とリスク要因
主な原因食品は以下の通りです:
- 鶏卵およびその加工品(半熟卵、卵サンドなど)
- 食肉(特に鶏肉、ひき肉製品)
- 加熱不足の惣菜、仕出し料理
- 菓子類(プリン・シュークリームなど、生卵を使用する製品)
- ペットを介した感染(カメ・トカゲ・鳥など)
これらは一見、加熱・調理を経て安全そうに見える食品でも、加熱温度や時間が不十分だったり、調理後に汚染が起きた場合に感染します。
また、低温でも完全に死滅しないため、冷蔵庫の過信も禁物です。8℃前後ではゆるやかに増殖し、10℃を超えると急速に菌数が増えることが報告されています。
現場で起きやすい“交差汚染”
現場で最も多いのが「知らないうちに菌を移してしまう」ケースです。
たとえば、鶏肉を切った直後の包丁で生野菜を切る、卵を割った後の手で他の食材を触る――。
これだけでサルモネラ属菌は容易に移動し、完成した料理が汚染されてしまいます。
調理台・布巾・タオルなどの共有物も感染媒体になります。特に布巾は湿った状態が続くと菌の温床となり、清潔に見えても汚染していることがあります。
そのため、洗浄と乾燥をセットで行うこと、さらにアルコールなどの衛生管理剤での拭き上げが欠かせません。
食中毒を防ぐための3原則
1. 加熱
サルモネラ属菌は75℃で1分以上の加熱により死滅します。
肉料理は中心温度を測定し、全体が均一に火が通っていることを確認します。電子レンジ加熱ではムラが生じやすいため、温度計による確認が効果的です。
2. 冷却・保存
加熱後の食品は常温で放置せず、できるだけ早く冷却して10℃以下で保存します。
冷蔵庫内の温度管理を定期的にチェックし、冷気の流れを妨げないよう整理整頓も重要です。冷蔵庫のドアポケットや上段は温度が上がりやすく、卵や肉類の保管には不向きです。
3. 清掃・衛生管理
調理器具、手指、作業台は、使用のたびに洗浄・乾燥を徹底します。
その上で、衛生管理用アルコール製剤などを用いた拭き取りを行うことで、再汚染のリスクを最小限に抑えられます。
食品工場や飲食店では、清掃計画を「毎日」「週単位」「月単位」で区分けし、記録に残す運用が望ましいでしょう。
また、ハエ・ゴキブリ・ネズミといった害虫防除も重要です。これらはサルモネラ属菌の“運び屋”となるため、捕獲・侵入防止・生息調査を定期的に行う必要があります。
現場で実践したいチェックリスト
| 管理項目 | チェック内容 |
| 食材の取り扱い | 原材料は仕入時に外観・温度を確認。生食用と加熱用を明確に区別。 |
| 加熱 | 75℃・1分以上を目安に。中心温度計で確認。 |
| 保存 | 10℃以下を維持。長期保管は避け、調理後は速やかに冷却。 |
| 調理器具 | 用途ごとに分け、使用後は洗浄→乾燥→アルコール拭き。 |
| 手洗い | 石けん+流水で20秒以上。清潔なタオル・ペーパーで乾燥。 |
| 害虫対策 | トラップ設置、点検記録、侵入口の遮断を定期実施。 |
このようなチェック項目を「衛生日報」や「HACCP管理表」に組み込むと、日常的な衛生習慣として定着しやすくなります。

食の安全は“日々の管理”から
サルモネラ属菌は、目に見えず、匂いも味も変えずに食品を汚染する非常に厄介な菌です。
しかし、基本を守れば確実に防げる菌でもあります。
温度を守り、交差汚染を防ぎ、清潔な環境を維持する。――この3つの原則が守られているかどうかが、食の安全を左右します。
近年では、衛生管理の効率化を支援するために、現場で使いやすいアルコール製剤や衛生管理用品も進化しています。
洗浄後の器具や作業台の拭き取り、定期的な清掃、手指衛生の補助などに上手に活用することで、現場の負担を減らしながら衛生レベルを安定的に維持することができます。
食中毒ゼロを目指すには、製品だけでなく「人の意識」と「仕組みづくり」の両輪が欠かせません。
今日からできる小さな一歩――それが、食の安全と信頼を守る最も確実な方法です。

