麻痺性貝毒(サキシトキシン等)― 食中毒としての危険性と予防知識

二枚貝が引き起こす自然毒食中毒。その危険性と予防知識。

「麻痺性貝毒(Paralytic Shellfish Poisoning:PSP)」は、サキシトキシン(Saxitoxin:STX)などの強力な神経毒が蓄積した二枚貝を食べることで起こる自然毒性食中毒です。
この毒は加熱調理では失われず、ごく少量でも神経麻痺を引き起こし、重篤な場合は呼吸麻痺によって命に関わることがあります。

日本では特に春先に発生しやすく、潮干狩りが盛んな地域では毎年注意喚起が行われます。大阪府の資料でも、貝毒発生海域の貝類を採取しないことが強く推奨されています。

麻痺性貝毒(サキシトキシン等)とは?

麻痺性貝毒とは、有毒プランクトンを餌として取り込んだ二枚貝に毒素が蓄積し、その貝を人が摂取することで発生する中毒です。
主要な毒素であるサキシトキシンは、青酸カリの数百倍ともいわれる強い神経毒で、舌や唇のしびれから始まり、全身の麻痺・呼吸困難を引き起こすことがあります。

特徴として下記が挙げられます。

  • 無味無臭で食品から感知できない
  • 熱に極めて強いため、加熱調理(茹でる・焼く・蒸す)でも毒性は失われない
  • 二枚貝の種類・場所・季節により毒量が大きく変動する

潜伏期間は食後 約30分と短く、症状の進行も早いため、予防が何より重要な毒です。


感染のメカニズムと主な感染源

1. 汚染・感染源と経路

麻痺性貝毒の原因は、海中に発生する特定の有毒プランクトン(渦鞭毛藻類)です。
二枚貝は海水を吸い込み、内部で濾過する過程でそのプランクトンを取り込み、毒素が体内に蓄積されます。
ポイントは、貝自身は毒を持っていても身体に影響を受けないということ。
毒は外見や味に変化を与えないため、見た目だけでは安全かどうか判断できません。

  1. 海域に有毒プランクトンが大量発生
  2. 二枚貝が餌として摂取
  3. 貝の内臓・筋肉に毒が蓄積
  4. その貝を人が食べて中毒が発生

上記の流れで汚染が発生します。特に春先はプランクトンの増殖が活発になり、貝毒の発生件数が増える傾向にあります。

2. 原因食品とリスク要因

原因食品

  • アサリ
  • カキ
  • ホタテガイ
  • ムラサキイガイ
  • その他の二枚貝類全般

リスクが高まる要因

  • 有毒プランクトン発生海域での採取
  • 貝毒警報や注意情報を無視して採取
  • 個人で潮干狩りした貝を自己判断で食べる
  • 毒の蓄積量が高い季節(春~初夏)の摂取
  • 海域により毒種類・蓄積量が変動する点を軽視する

自治体は海域ごとに貝毒検査を行い、「出荷停止」「採取禁止」「注意喚起」などの情報を出しています。
これを確認せずに採取した貝を食べる行為が最も大きなリスク要因です。


現場で起きやすい麻痺性貝毒中毒の実態

1. 潮干狩りの「自己採取」による中毒

麻痺性貝毒中毒の多くは、個人が潮干狩りで採った二枚貝を自宅で調理して食べるケースです。
とくに家族での潮干狩りは人気で、子どもが採ったアサリをそのまま食べてしまい、中毒に至る事例が報告されています。

採取した海域が安全かどうかは目で見ても判断できず、毒の有無は「自治体の検査情報」でしか把握できません。

2. 加熱による安全化の誤解

麻痺性貝毒は加熱に強いため、「しっかり火を通せば安全」という誤解が非常に危険です。

実際には、茹でる蒸す・焼く炊き込みご飯にするといった料理の技法では毒性は消えず残留します。

3. 貝の見た目や臭いでは判別不能

魚介の鮮度劣化なら臭いで判断できますが、貝毒は無味・無臭・無色です。
安全な貝と危険な貝を個人の感覚で見分けることは不可能です。

4. 毒量の個体差・海域差

同じ種類の貝でも、採取場所や時期により毒の量が大きく異なります。
自治体の海域検査が定期的に行われるのはそのためで、「去年は大丈夫だったから今年も安全」という判断も危険です。


日常でできる予防のポイント

1. 自己採取した貝は食べない

潮干狩りなどで採取した貝は、必ず自治体の貝毒発生情報を確認したうえで判断します。
貝毒注意報が出ている海域では採取自体を避けるべきです。

2. 出荷規制区域の貝を購入しない

市場や販売店では、自治体の検査を通過した貝のみが流通します。
不明なルートの貝は購入しないことが安全管理上重要です。

3. 加熱で安全にはならないことを認識

麻痺性貝毒は耐熱性が極めて高いため、家庭では除毒できません。

毒に対して抵抗力の弱い小児や高齢者では症状が重くなりやすいため、より慎重な判断が必要です。
麻痺性貝毒を防ぐ最大の方法は「危険な海域で二枚貝を採らない」ことです。
厚生労働省・自治体は貝毒の発生状況を逐次公開しています。


現場で活かせるチェックリスト

管理項目チェック内容
仕入れ管理信頼できる業者から、自治体検査済みの貝のみ仕入れているか
産地確認ラベルの海域情報・出荷規制の確認
自己採取禁止スタッフ・顧客に「採ってきた貝を提供しない」ルールが徹底されているか
加熱処理に関する認識加熱による無毒化は不可能という認識の浸透。
保健所情報との照合自治体などの貝毒発生情報を定期的にチェックしているか
教育とマニュアル整備従業員向けに中毒リスク・緊急対応方法の教育実施。
提供停止判断発生情報が出た場合、直ちに販売・提供を停止する体制があるか

まとめ

麻痺性貝毒は、加熱しても毒が残る自然毒性食中毒であり、誤って摂取すると短時間で神経麻痺が進行し、最悪の場合は命を落とす危険があります。
しかし、適切な情報確認と採取禁止区域の遵守により、ほぼ確実に防ぐことができます。

「潮干狩りだから大丈夫」「茹でれば安全」という思い込みが事故につながります。
安全な海域・検査済みの貝を選び、正しい知識と行動で自然毒による食中毒を防ぎましょう。