下痢性貝毒(オカダ酸群)― 食中毒としての危険性と予防知識

二枚貝に蓄積する自然毒による下痢性食中毒と、その正しい理解・予防

下痢性貝毒(Diarrhetic Shellfish Poisoning:DSP)は、有毒プランクトン(渦鞭毛藻類)によって生み出される毒素「オカダ酸群(Okadaic acid)」が蓄積した二枚貝を食べることで起こる自然毒性食中毒です。
主症状は、水のような激しい下痢、腹痛、嘔気、嘔吐など、いわゆる「急性胃腸炎」と似た症状が特徴で、潜伏期間が30分〜4時間と短いのが特徴です。

致死例は多くありませんが、発症が急で強烈な症状が出るため、発生すると医療機関での対応が必要になるケースもあります。また、麻痺性貝毒(PSP)と同様に 熱に極めて強く、加熱調理で毒が消えないため、予防には最新の海域情報の確認が必須です。

下痢性貝毒(オカダ酸群)とは?

下痢性貝毒は、二枚貝が海中に生息する有毒プランクトン(Dinophysis 属、Prorocentrum 属など)を摂取することで毒が体内に蓄積し、その貝を人が食べることで引き起こされます。

  • オカダ酸(Okadaic acid)
  • ディノフィシストキシン(DTX-1、DTX-2 など)

上記の毒素の「オカダ酸群」は、腸管の細胞を刺激することで、水様性の下痢を引き起こし、短時間で大量の水分を排出させる作用があります。

特徴

  • 無味・無臭で外見からは判断できない
  • 加熱しても毒性は失われず、茹でても焼いても安全にはならない
  • 季節変動があり、特に春先の発生が多い
  • 二枚貝の種類や地域により毒量が変動

感染のメカニズムと主な感染源

1. 汚染・感染源と経路

下痢性貝毒は、二枚貝の「濾過摂食」によって発生します。
貝は海水を吸い込み栄養分を濾し取る生き物で、その過程で海域に増殖した有毒プランクトンを取り込みます。

  1. 海域に有毒プランクトンが増加
  2. 二枚貝が餌として摂取
  3. 毒素が貝の内臓や筋肉に蓄積
  4. 人がその貝を食べて中毒が発生

ポイントは、毒は貝の体内に蓄積しても貝自身には害がないため、見た目・におい・味からは全く判断できないことです。

2. 原因食品とリスク要因

原因食品

  • アオヤギ
  • アカガイ
  • ホタテガイ
  • ムラサキイガイ
  • その他の二枚貝全般

リスクが高まる要因

  • 春先〜初夏にかけて増える有毒プランクトン
  • 潮干狩りシーズンの「自己採取」
  • 海域の貝毒警報を確認せず採取・摂取
  • 個体差や海域差による毒の蓄積量の変動
  • 「加熱すれば安全」という誤った認識

現場で起きやすい下痢性貝毒中毒の実態

1. 潮干狩りで採取した貝の「自己調理」

毎年報告される典型例が、家族で潮干狩りした貝を持ち帰り、そのまま味噌汁や酒蒸しにして食べてしまうケースです。
自治体が当該海域に「貝毒注意報」を出していても、把握せずに採取されることが多く、中毒の原因となっています。

2. 下痢性貝毒は「加熱しても安全にならない」

胃腸炎症状を引き起こす毒ではあるものの、ウイルスや細菌とは異なり、加熱で無毒化されない点が大きなリスクです。
そのため、茹でる・焼く・蒸す・炊き込むなどの料理操作では、毒素が残ったままになります。

3. 個体差・海域差が大きい

同じ海域で採取した貝でも毒性に差があり、「去年は安全だったから今年も大丈夫」という発想は非常に危険です。

4. 症状のスピードが早い

食後30分〜4時間という短時間で発症し、急激に下痢が始まることから、飲食店では「食中毒と誤認して調理工程を疑う」ケースも見られます。
しかし、下痢性貝毒の場合は、原因は貝の毒であり、人の調理過程には問題がない場合がほとんどです。


日常でできる予防のポイント

1. 自己採取した二枚貝は食べない

潮干狩りの際は、必ず自治体の「貝毒発生情報」を確認します。
注意報・警報が出ていれば、採取および喫食は避ける必要があります。

2. 出荷規制された海域の貝は絶対に購入しない

市場に流通する貝は自治体検査を通過したものですが、個人売買や非正規ルートの品には注意が必要です。

3. 加熱調理では無毒化しないことを理解する

一般的な細菌性食中毒(サルモネラなど)とは異なり、自然毒は加熱・冷凍で分解されないという理解が必要です。

4. 家庭では判断しない

貝毒は無味・無臭・無色のため、感覚的な判断は不可能です。

脱水症状になりやすい年代では、下痢性貝毒による症状が重くなりやすいため、
特に注意して摂取を避けるようにします。


現場で活かせるチェックリスト

管理項目チェック内容
仕入れ管理検査済みの二枚貝のみ仕入れているか
産地確認ラベルの海域情報・出荷規制の確認
自己採取禁止スタッフ・顧客に「採ってきた貝を提供しない」ルールが徹底されているか
加熱処理に関する認識加熱による無毒化は不可能という認識の浸透。
保健所情報との照合自治体などの貝毒発生情報を定期的にチェックしているか
教育とマニュアル整備従業員向けに中毒リスク・緊急対応方法の教育実施。
提供停止判断発生情報が出た場合、直ちに販売・提供を停止する体制があるか

まとめ

下痢性貝毒(オカダ酸群)は、急性の激しい下痢・腹痛を引き起こす自然毒性食中毒であり、
加熱処理では除毒できない点が重大なリスクです。
しかし、発生海域の情報を確認し、危険地域の貝を採らない・食べないという
基本ルールを徹底することで、中毒はほぼ確実に防ぐことができます。

潮干狩りや家庭調理での自己判断が最も危険な行為であることを理解し、
正しい知識と行動によって自然毒による事故を防いでいきましょう。